WindowsでDocker環境の構築（Docker Desktopを使わない）

1. はじめに

商用利用ではDocker Desktopの無償枠（個人・従業員250名未満かつ年間売上1000万USD未満など）の条件を満たさないケースがあり、エンタープライズ契約が必要になります。そこで本記事では Windows 11 + WSL2 + Linux版Docker Engine を組み合わせ、Docker Desktopに依存しない構成をまとめます。

2. 全体アーキテクチャ

• Windows 11 Pro/Enterprise 22H2以降にWSL2を有効化
• wsl --install -d Ubuntu-22.04 でLinux環境を用意し、そこへDocker Engineをインストール
• VS CodeのRemote拡張、CLIツール（docker-compose / lazydocker / ctop）やWeb UI（Portainer）で操作
• Windows側はHyper-V等を使わず、WSL2の軽量VM上で完結

3. 事前準備（WSL2 + Docker Engine）

1. PowerShell（管理者）で仮想化機能とWSL2を有効化:

   dism.exe /online /enable-feature /featurename:VirtualMachinePlatform /all /norestart
   dism.exe /online /enable-feature /featurename:Microsoft-Windows-Subsystem-Linux /all /norestart
   wsl --install -d Ubuntu-22.04

   再起動後はPowerShellやWindows Terminalでwsl -d Ubuntu-22.04を実行すると初期セットアップが開始され、ユーザー名とパスワードを登録すればUbuntuシェルにログインできます。以降はwslまたはスタートメニューの「Ubuntu」から同じユーザーでログイン可能です。
2. 初回起動したUbuntuでDocker公式リポジトリを追加し、エンジン一式を導入:

   sudo apt-get update
   sudo apt-get install -y ca-certificates curl gnupg lsb-release
   sudo install -m 0755 -d /etc/apt/keyrings
   curl -fsSL https://download.docker.com/linux/ubuntu/gpg | sudo gpg --dearmor -o /etc/apt/keyrings/docker.gpg
   echo \
     "deb [arch=$(dpkg --print-architecture) signed-by=/etc/apt/keyrings/docker.gpg] https://download.docker.com/linux/ubuntu \
     $(lsb_release -cs) stable" | sudo tee /etc/apt/sources.list.d/docker.list > /dev/null
   sudo apt-get update
   sudo apt-get install -y docker-ce docker-ce-cli containerd.io docker-buildx-plugin docker-compose-plugin

   公式リポジトリを登録しないまま sudo apt-get install docker-ce ... を実行すると Package 'docker-ce' has no installation candidate などのエラーになるため、上記の鍵登録とlsb_release -csで取得したコードネームが実行中のUbuntu（例: jammy/focal）と一致していることを確認してください。
3. Dockerソケットの権限エラーを防ぐため、現在のユーザーをdockerグループへ追加し再ログイン:

   sudo usermod -aG docker $USER
   newgrp docker   # もしくはWSLを再起動
   docker run hello-world

   docker: permission denied while trying to connect to the Docker daemon socket が表示される場合は、グループ追加が反映されていないかDockerデーモンが起動していない可能性があります。newgrp dockerで即時反映するか、sudo service docker startで状態を確認してください。

4. ツール別の特徴と導入手順

4.1 VS Code Remote + Docker拡張

• 特徴: Remote - WSLでWSL内のフォルダを直接開けるため、Docker CLIやボリュームをLinux側に置いたまま編集可能。Docker拡張を追加すると、コンテナ/イメージ一覧やログ閲覧・VS Code内でのインタラクティブ操作が行えます。
• 導入:
  1. Windows側でVS Code最新版をインストール。
  2. 拡張マーケットプレイスで「Remote Development」「Remote - WSL」「Docker」を追加。
  3. wsl.exe に接続し、VS Code左下の緑アイコンから「WSLに接続」を選択。
  4. Docker拡張の設定 > Docker: Host を unix:///var/run/docker.sock にしてWSLソケットを指す。

4.2 docker-compose（v2）

• 特徴: 複数コンテナを同時に定義・起動するデファクト。v2ではdocker composeサブコマンドとして統合され、BuildKitや拡張ドライバーに対応。
• 導入: 既にインストールしたdocker-compose-pluginで利用できます。docker compose versionで確認し、docker compose up -d などのコマンドをWSL内で実行します。WindowsのPowerShellから実行したい場合はwsl docker composeとプレフィックスを付けます。

4.3 lazydocker

• 特徴: CLIだけでコンテナ/ログ/リソースを俯瞰できるTUI。docker psやdocker logsを連続実行する手間が省け、キーボード操作でコンテナ再起動やcompose stack切り替えが可能。
• 導入:

  curl -L https://github.com/jesseduffield/lazydocker/releases/latest/download/lazydocker_$(uname -s)_$(uname -m).tar.gz \
    | tar xz lazydocker
  sudo mv lazydocker /usr/local/bin/
  lazydocker

  初回起動で設定ファイルが ~/.config/lazydocker に生成されます。

4.4 Portainer

• 特徴: ブラウザでコンテナやボリュームを管理できる軽量ダッシュボード。スタックのデプロイやレジストリ連携、ユーザー権限管理もGUI上で完結。
• 導入:

  docker volume create portainer_data
  docker run -d \
    -p 9000:9000 -p 8000:8000 \
    --name portainer \
    --restart=always \
    -v /var/run/docker.sock:/var/run/docker.sock \
    -v portainer_data:/data \
    portainer/portainer-ce:latest

  ブラウザで http://localhost:9000 を開き、初回管理者アカウントを作成します。

4.5 ctop

• 特徴: topライクな表示で各コンテナのCPU・メモリ・ネットワーク使用率を確認できる軽量監視ツール。矢印キーでコンテナを選択し、lでログ、sでシグナル送信などが可能。
• 導入:

  wget https://github.com/bcicen/ctop/releases/download/v0.7.7/ctop-0.7.7-linux-amd64 -O ctop
  chmod +x ctop
  sudo mv ctop /usr/local/bin/
  ctop

5. 運用のポイント

• \\wsl$\<distro>\ をエクスプローラーで開き、GitリポジトリをWSL側に配置してI/Oを高速化。
• VS CodeのDev Containers機能で必要なツールをdevcontainer.jsonにまとめると、他メンバーも同じ環境を容易に再現可能。
• Portainerで本番/検証ホストをエンドポイントとして追加すれば、WSL内から複数サーバーを遠隔管理できます。
• lazydockerやctopをWindows Terminalのペインで常時表示すると、Docker Desktopよりも軽量にリソースを監視できます。

6. Docker Desktopとの比較

観点	本構成（WSL2 + Linux Docker）	Docker Desktop
ライセンス費用	100% OSSのため商用でも追加費用なし	企業規模によって有償サブスクリプションが必要
パフォーマンス	WSL2内で直接Linuxカーネルを使うためI/Oが速く、メモリ使用量も抑えられる	GUI常駐でメモリを数百MB〜1GB程度消費
管理UI	PortainerやVS Code拡張などを組み合わせて用途別に最適化	Docker Desktopアプリのみで完結、設定はGUI依存
アップデート	パッケージ管理で細かく制御できるが、メンテナンスの手間がかかる	アプリ更新で一括反映、ただし強制再起動が発生することも
機能統合	必要なツールを選んで軽量構成にできる	Kubernetes等がバンドルされるが、不要でもリソースを消費

7. まとめ

Docker Desktopを避けても、WSL2上にDocker Engineを構築し、VS Code Remoteやlazydocker・Portainer・ctopで補完すれば、商用でも安心してコンテナ開発環境を整えられます。必要に応じてツールを拡張しつつ、各コンポーネントを定期的にアップデートし、安全で再現性の高いワークフローを維持してください。